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2021/06/16

サイバー・バズ元CFO和田氏を招き、「上場前後の予実管理のリアル」をテーマにセミナーを開催しました(前編)

多くのスタートアップ企業にとって、IPOは大きな目標の1つです。しかし、IPOは決して簡単にできるものではありません。上場申請では詳細な事業計画の提出が求められますし、上場後にも決算短信を提出する必要があります。このようなハードルを着実に乗り越えるために重要なのが、上場前後での緻密な予実管理です。

先日、DIGGLE株式会社は「上場前後の予実管理のリアル」をテーマに、株式会社サイバー・バズの上場時のCFOで、ナハトムジーク株式会社代表取締役の和田瑞樹氏をお招きして、セミナーを開催しました。

ナハトムジーク株式会社 代表取締役 和田瑞樹氏

予実管理インサイトでは、同セミナーの内容を前・後編の2回にわたりご紹介いたします。前編では、主に上場前についてのお話をご紹介します。

上場準備の最初の実務とは

――上場前後の予実管理の実務といっても、かなり幅広いテーマかと思います。例えば時期で区切ると、n-1を境に実務のステージも変わってくるのではないでしょうか。そういった意味で、上場準備の最初の段階、n-1よりもっと前、n-2など、その段階での実務について、簡単に教えていただいてよろしいでしょうか。

和田:実際に自分がやっていたことと、こうだったほうがいいなというのを交えながらのお話をします。

まずn-2でちゃんとやっておいた方がよいことでいうと、予実分析に必要な情報の整理と必要に応じて適切に情報を取り出せる仕組みづくりですかね。証券審査の段階が一番予実を問われます。その時にKPIは、大体3ヵ年でどう推移していくかとか、季節要因があるので、3ヵ年で比較とかを求められるんですよ。ということは、n−2の情報って上場審査の時も使うので、自社の事業のPL情報だけではなくて、予算策定に使うKPI情報やさらにKPIの要素分解した情報が正しく揃えられている状況かとか、どこに情報が格納されていて、それをCSVとかで吐き出して、加工すればすぐ対応できるような状態をどう築くか、というのが結構大事です。そういった基礎固めも、n−2くらいから始めていく必要があるかと思います。

加えて、PLの予実については、n-2では、そんなに精度が高くなくてもそこまで困らないです。n-1、nと精度を高めるために何をしたかというプロセスの方が大事です。ただ注意がいることとして、自己の体験になるのですが、「予算の作り方が当該事業を鑑みた際に妥当ではない」というように、予算の作り方そのものが適正であるか証券会社から指摘されるケースがあるんですよ。だから、「作り方の妥当性を検証していますよ」という説明も必要になります。n−2で多少粒度が荒かったとしても、「こういうロジックで予算を作っています。前回作成した予算について、こういう課題があったのでn−1ではこういう調整をしました。さらに予実の精度を高めるために今はこうしています」といった説明をしなければいけないので、その準備というニュアンスでやれば大丈夫かなと思います。

妥当性を説明するためのロジック

――そうすると、まずKPIといわゆるPLに分かれて、KPIに関してはかなり過去まで求められるので、n− 2といえどしっかりそのようなデータを蓄積して、必要になった段階で出せるような体制を整えることが重要だということですね。PLに関しても、しっかり予算の作り方の妥当性を説明できるように準備されることが大事ということを理解しました。

ちなみに予算の作成方法でいうと、例えば妥当性というと、どのようにロジックを使って説明できるのか、何か具体的な例を簡単なもので構いませんのでご教示いただけますか。

和田:まず確認したほうがいいのは、同業他社に当たるような会社などが上場した時に、その年の着地予想をどのような考えに基づいて作成したかですね。TDnet上に「東京証券取引所マザーズへの上場に伴う当社決算情報等のお知らせ」のようにタイトルのプレスリリースが出るんですよ。ほとんど目にすることがないんですけれど、これを拾っておいて、どう作られているかを把握しておくのが大事だと思います。

みなさん多分成長企業だと思うので、一番ややこしいのが成長率の妥当性をどう説明するか、ここが私も苦戦したところでした。新しい市場をやっていらっしゃる方も多いと思いますが、「まだ新しい市場なのでないので、妥当性があるものは…」のような接頭語をつけながら、とはいえ「市場調査や競合他社、業界団体で出している成長率予想と今までの我々の成長率を鑑みると、こういうふうに考えています」とか。

あとはこれができる会社だとすごく楽なんですけど、例えばある程度生産性が一定の営業主体の会社であれば人数に対して比例するので、「採用計画≒成長です」とか。メディアとかサービス系でいくと、「こういう広告宣伝費とかユーザー獲得ができるとこうなので、こういう予算を確保することでこういう成長率です」とかはできるんですけど。

そのあたりの上場する会社がTDnet上で公開しているプレスリリースを見ておくと、証券会社がどういうふうに説明してほしいかがわかるので、それが一番いいのかなと思います。

上場直前ラストスパートの実務

――そうすると次の段階、一部先にご説明いただいた部分もあったかと思いますが、n−1から、n期、上場に向けて最後のラストスパートみたいな時期に関しては、実務ではどのようにやっていたのでしょうか。

和田:私がいた会社の管理部門の体制を簡単にご説明しておきますね。実は管理部門は最小限でやっていまして、私と管理部長のような者がいて、この者が法務の知見を持っていました。財務経理では、n−1の真ん中くらいに、ようやく上場会社で経理経験者が採用出来て2名体制になりました。それまでは未経験者を育てながらやっていたので、n−2時点だと、3人で管理部門を回していました。一応財務と経理の分離というのがあるので、振り込みだけをやってくれるアシスタントみたいな人員を1人入れて、財務経理の分離というロジックだけは作っていたんですが、実務的にはそのような体制でやっていました。

この体制の中で、主に私と管理部長で取締役会対応を含めた通常の業務を行いつつ、上場準備と監査法人対応もしていました。加えて、n−1とnに資本政策があるという、とんでもないスケジュールで動いていたので、適宜外部の協力者の力を借りながら対応していました。なので、私は肩書きは取締役なんですけど、かなりプレイングでやっていて、予実管理自体はほぼ私がコントロールしている状況でした。

ちょっと脱線するかもしれないんですが、予実の精度って未来予測をどれだけきちっとするかみたいな感じで捉えがちですよね。でも私の解釈でいくと、そんなのできるはずがないので、自分たちが出している予測から、ブレそうなものをどれだけ早く察知して、そのブレをどういう手で修正できるかという、この能力をつける時間がn-1だと思っています。だから、そのあたりを事業部門とトレーニングしたりとか、会議体で議論する数字の話を少し未来に引っ張るとか、そういうことをしながら、上場する年に多少数字がブレそうになっても対処できる仕組みを作り、上場後はブレそうになった時にいかに早く対処出来る組織。になっているかが大事だと思います。

非常に抽象的で、なんとかするという話になっちゃうんですけど、その手数や事業部門の耐性をつけていくというのが、非常に大事かなと自分では解釈しています。

事業部と連携するために必要なコミュニケーション

――事業部のお話も出たのでお伺いさせてください。予実がずれそうなときに素早く察知する体制を整えるというところは、和田さんが予実管理をやっていたとはいえ、事業部から直接の生の声を吸い上げないと、なかなか難しいのではないかと思います。和田さんはもともと事業部にもご所属されていたということで、そのあたりはいろいろ経験や工夫された点もあると思うんですが、事業部との連携だったり、そこから数字を吸い上げるという点において、何かご意見やご知見を教授いただけますでしょうか。

和田:おっしゃっていただいたように私は事業経験があるので、上場する時にあった事業は一通り関与したことがあるというのが前提になってしまうんですけど、やっぱり事業責任者は、社長も含めてですけど、よく見せたいんですよね。そのよく見せている度合いがどのくらいなのかとか、責任者の性格を押さえておくのは大前提であります。

私は普通の役員会とかボード会以外に、比較的上がったばかりの責任者クラスとは、個別のミーティングを週一でとっていました。そこで吸い上げたりもしますし、その場ではどちらかというと、精度とか、「これどうなっているの」というよりは、コミュニケーションは、「ぶっちゃけこれきついでしょう」「これは何がうまくいったらこういくという前提なんだっけ」みたいな話をしていました。。逆のパターンもあって、「これ結構抑えて言っているでしょう」みたいな。それが、各部門でどういうニュアンスになっているのかをいち早く押さえておく。ここで、「実は社長にはちょっと言いづらいんですけど」とか、「会議の場では言いづらいんですけど」みたいな内容を把握することを大事にするようにしていました。。

――やはりそういう意味でいうと、システマチックなものをガチガチに作るというよりは、事業部門の方との一対一のコミュニケーションを大切にされつつ、その中で丁寧にひとつずつ声を拾っていくというお話ですね。

抽象的な質問になってしまうんですが、事業部の方とのコミニケーションに関して、もう少し別の方向で実はこういうこともやっていたとか、何か具体的なご経験があれば、ぜひ共有いただければと思います。

和田:サイバー・バズという会社の事業を少し補足しておくと、上場した時はインフルエンサーのマーケティングの会社で、簡単に言うとインスタグラマーを使ってプロモーションしましょうという提案をする広告会社です。

実は、その着地予想を事業責任者から出してもらうと同時に、ラップ管理というものをやっていて。毎週営業活動していくと、日々だんだん契約が積み上がっていくわけじゃないですか。毎週金曜日に集計していたんですが、金曜日の時点で、「今四半期の契約がいくらまで積み上がっています、来四半期がいくらまで積み上がっています、再来四半期がいくら積み上がっています」というデータを、上場準備が始まるずっと前からとっていました。

だからなんとなく、「この流れでいくとこのあたりに着地するよね」というニュアンスは持っているんですよ。それと事業部門が提出してくる着地予想をぶつけて、「実際これだけ差異があるけど、これって具体的にいうとこんな大きな案件があるからなんだよね」なのか、正直見込みがない中で、一旦「たられば」で入れていて、「確度は低いけど、大きな案件は、ABCは用意しているんです」みたいな話とか。ないのだったらないで、いつ頃に会議体でそれをオープンにするのか。ただオープンにして、「下がります、以上」だと締められるだけなので、そこに向けて事前にできる手、どこまでリカバーできるかを一緒に考えてあげる、みたいな話もしていました。

前職は執行役員が事業責任者になるんですけど、その下の部長のところにも、日常的にふらふらと行って、「今期って多分このへんが案件がある想定じゃない?」みたいな話を聞きにいったり、場合によっては営業担当者たちのところまで行って、「実際どうなの」という会話をしたり、クライアントへの提案書やレポートを見に行っていました。

さっきご質問いただいたコミュニケーションについて、今申し上げたように責任者だけじゃなくて担当者からも口頭での収集もしますし、重要なクライアントは実際の提案書やレポートを基に話をしていました。。担当者に聞くと、上司からは、「決まります」と報告を受けていた案件も、「ぶっちゃけきついんですよ」みたいな話が出てきますし、私としては「その状態はわかった」ということと、もうひとつ、「最悪ここまでは決まる」というのはどの範囲みたいな肌感を持ってます。そういうことを大事にしていたので、逆になかなかすぐに引き継げないという原因にもなっちゃうんですけど、一旦上場するまで走りきるしかないので、まあいいかなと思ってやっていました。


レポートの後編では上場後のポイントのお話をご紹介する予定です。

DIGGLE株式会社では毎月、予実管理業務に関するセミナーを開催しております。ぜひご参加ください。

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