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適切な経営判断を可能にする「予実管理」── 経営の体幹を強化する2つのポイント

本記事はBizZineへ掲載された記事を許諾を得てBizZine本誌から転載しています。

社会情勢の変化、気候変動、顧客価値の移り変わりの速さなどを背景に、企業の予算と実績を管理する「予実管理」の重要性が増しています。今回は、予実管理とは何か、なぜ企業にとって重要なのか、予実管理を進める上で何がポイントになるのかを解説しています。

経営の体幹となる「予実管理」とは

 「予実管理」とは、その名の通り企業の予算と実績を管理することであり、この業務と無縁な企業はほとんどありません。一方で、予実管理にはレギュレーションがなく、加えて実務に関する情報が少ないこと、定期的に繰り返すという業務の性質上ルーチン作業になりがちであることから、そもそもの目的や重要性について意識している担当者は少ないのではないでしょうか。

 企業の“予算”と“実績”を“管理する”とは、具体的に何をすることなのでしょうか。多くの場合、期初に立案した予算に対して、確定した実績を突合し、その差分を把握する作業とされています。

 私は、この予実管理こそが「経営の体幹」だと考えています。

 人間の動きを想像してみてください。人間が前へと進むとき、手足を動かすだけでなく、体幹が体全体を支えているはずです。前進しているときにふらついたり、障害物につまずいてよろめいたりしても、体幹が機能して体全体をサポートし、転倒を防いでいますよね。企業活動においても、企業が目指す方向(=ビジョン)や、それを年次の活動に落としこんだ予算の達成に向けて進む中で、想定より支出が増えることや、外部要因によって売上が下がることもあります。そのような差異を把握し、軌道修正していくという予実管理の役割は、まさしく経営にとっての“体幹”といえるのではないでしょうか。

 予実管理が機能しているからこそ、事業を前に進めることができます。これが機能していない中で経営判断を下すことは、暗闇の中でライトを持たずに進むようなものです。そのような意味で、予実管理は企業使命を達成するために欠かせない機能であるといえます。

予実管理が果たす4つの役割

 予実管理は、大きく「予算策定」と「予実突合・差異分析」「見込管理」「レポーティング」にわけることができます。それぞれを見ていきましょう。

予算策定

 予実管理は予算と実績を比較する業務なので、予算がなければ始まりません。その意味で、予算策定も予実管理の重要なパートの一つです。

 予算の役割は、経営の意思を社内外のステークホルダーに示すことです。先ほどご紹介した体幹の例になぞらえると、人が進む方向や速さを明確にし、体全体でそこに向かう意思決定をすることだといえます。

 予算策定の際には、ステークホルダーを巻き込み、具体的な根拠に基づいた数値に落としこむことが重要です。これらをしっかりと実現することで、ステークホルダーにも共通の認識ができ、企業活動の推進力を得ることができます。とはいえ、企業規模が大きくなるほど、関係者が多く時間も限られているため、上記を実現することは容易ではありません。「予算策定」だけでも経営管理の担当者にとっては一大業務なので、このポイントについては、別の機会に詳細を解説したいと思います。

予実突合・差異分析

 いわゆる「予実管理」といった際には、予実突合と差異分析を指していることがほとんどです。これは、経営の“意思”である予算と確定した“成績”である実績を比較し、その差分を分析する作業です。

 多くの場合、予実比較の粒度は勘定科目単位だと思います。しかし、企業活動が活発になるにつれ、勘定科目内に多くの要素が混じってしまい、単純に費目ベースでのズレを把握しただけでは、根本の要因にたどり着けないことが増えてくるのが実情です。そのため、比較の粒度を部門ごとにわける(管理会計の構築)、勘定科目よりも細かい粒度で突合するといったことをしている企業が多く見られます。それにより、予実差異の原因特定を素早く行い、適切な打ち手へつなげていくことが可能になるのです。

 一方で、管理の粒度を細かくしていくと、オペレーションが煩雑になったり数値集計の負荷が増してしまったりという課題も生じます。たとえば、部門ごとの予実管理を導入するために予算を部門ごとに作成する、実績情報(会計ソフト)に部門コードを付与するといった追加の作業が発生します。これらの中で、人為的なミスが生じることは避けられず、メンテナンスの工数も増大してしまうのです。

 どこまで細かく管理するかは、企業の規模やビジネスモデル等に左右されるため、明確な正解は存在しません。しかし、すべての企業に共通していえることがあります。それは、自社が把握しておきたい粒度の数値を管理するための「洗練されたオペレーションの構築」が非常に重要だということです。

各部門とのコミュニケーションが不可欠な「見込管理」と「レポーティング」

見込管理

 実績が過去の成績であることに対して、「着地予測」「ヨミ」などとも呼ばれる「見込」は、将来を予測することを指します。

 企業活動を行う上で、精緻な見込予測の実施は非常に重要な役割を果たします。なぜなら、差異の要因を把握して軌道修正するための打ち手を実行することが予実管理の目的ですが、その「差異」とは「将来時点での差異」だからです。

 たとえば、ある月の広告宣伝費が当初想定より100万円下振れ(少ない)していたとします。これだけを見て、余った100万円を他の施策に充てることができると判断できるでしょうか。答えは否です。下振れの要因を見てみると、この100万円は予定していたイベントが延期になったために発生していた差異でした。ということは、次月に支出することになるかもしれません。そうなってしまうと、次月の費用予測は当初想定より100万円多くなるはずです。これを把握せずに別の施策に100万円支出してしまうと、トータルでも支出過多になってしまう恐れがあります。

 このように、軌道修正のための打ち手を繰り出すにあたっては、あくまでも将来の着地予測を把握した上で必要な施策を実施していくことが必要となります。

 ただし、実績情報が会計ソフトから一括で収集できるのに対して、見込情報は、各予算の担当者(=執行責任者)しか把握できていないことがほとんどです。予実管理担当者は、これら担当者とのコミュニケーションを欠かさず、見込情報の変化を素早く吸い上げる仕組みを構築することが重要な業務となります。

レポーティング

 先にご紹介した3つとは少し性質が異なりますが、レポーティングも予実管理において重要な役割を担っています。

 予実管理の目的は、経営活動のモニタリングをするだけでなく、必要に応じて軌道修正をしていくことにあります。その意思決定をするためには、予実分析の結果、すなわち自社の現状を素早く、かつわかりやすくして社内に展開しなければなりません。

 ビジネスモデルや業態によって、また同じ業態であってもタイミングによって、着目したい数値は異なります。これらに柔軟に対応し、常に自社ビジネスのレバレッジの効く指標、もしくはボトルネックとなり得る数値を適切に把握して、コミュニケーションをとることが、レポーティングの重要な役割なのです。

予実管理の2つのポイント

 ここからは、予実管理で特に重要となる2つのポイントについて説明していきます。

予実管理サイクルの構築

 前ページまで予実管理の役割を一つずつ紹介してきましたが、予実管理の本質的な役割は、持続的な改善、軌道修正サイクルを回すことです。つまり、経営の目標を立て、それに対する実績のズレの要因を把握して将来の予測をし、最終的には打ち手につなげる。そして、その打ち手の結果を確認、ズレを修正し……と繰り返していくことです。

 そのためには、一つひとつの打ち手を単発で管理するのではなく、予算・実績・見込を一体管理し、連続的なつながりを把握する必要があります。目先の課題に対してとりあえず手を打ったものの、目的を見失ってしまったため結果から学べない、ということは避けなければなりません。

ステークホルダーとの協力関係の構築

 予実管理は、経営企画の担当者だけで実施できるものではありません。実績の数値は会計ソフトから引っ張ってくることができても、その裏にある定性的な情報や見込の数値収集などは、事業部門の協力が不可欠です。また当然のことながら、アクションプランの修正は事業部門と一緒に実施していくことになります。他にも、素早いレポーティングを実施するには、決算の早期化やワークフローの持続的改善をする必要があり、経理部門、総務部門との協力関係構築も必須です。

 予実管理の高度化は、経営に関わるすべてのステークホルダーが、高い目的意識を持ち協力していくことが必要不可欠なのです。

予実管理の重要性の変化

 最後に、予実管理の重要性の変化について紹介します。

 VUCAという言葉に表されるように、ビジネスにおいて将来の予測は非常に困難になっています。少し前に立てた計画の前提が数ヵ月後には変わっているということが往々にして発生しており、新型コロナウイルスの流行などはその代表例といえます。

 上場企業の決算の開示状況を調査したところ、2020年度末における決算の非開示企業は大幅に増加していました。コロナ禍での予実管理の難しさが表れているように思います。

出典:DIGGLE 独自調査「Covid-19が経営管理に及ぼした影響と、予実管理業務の経営への貢献」

 また下図で示すように、マザース上場企業のうち、2020年度における業績予想の修正をした企業数は大幅に増加しました。こちらからも予実管理の難しさが読み取れます。

出典:DIGGLE 独自調査「Covid-19が経営管理に及ぼした影響と、予実管理業務の経営への貢献」

社会情勢の変化、気候変動、顧客価値の移り変わりの速さなど、今後もより一層将来が見通しづらくなる状況になることは間違いありません。そのような中で、自社の状況を解像度高く把握し、スピード感を持って軌道修正していくことはますます重要になってきます。スピードと精度を兼ね備えた予実理体制がビジネス活動の基盤となり、そのような体制を構築できるかどうかが、企業経営に大きなインパクトを与えることとなります。

 今回は予実管理の役割と重要性について紹介しました。予実管理は「経営の体幹」であり、企業が活動する上での基盤です。一見地味な領域に思われることも多いですが、その巧拙が経営に与える影響は大きなものがあります。予実管理を担当部署や担当者の業務と捉えるのではなく、会社全体のミッションとして取り組むことが重要なのです。

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