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「現役ベンチャーキャピタリストに聞く シリーズB以降の資金調達と予実管理」をテーマにパネルディスカッションを開催しました(後編)

当記事はセミナーレポートの後編となります。

前編はこちらから。

事業拡大・成長のために不可欠な資金調達。特に、ベンチャー企業にとって、エクイティファイナンスにより財務基盤を強化することは、事業を大きく加速させることに繋がります。

DIGGLE株式会社では、ケップルキャピタル ファンドマネージャーの堂前泰志氏をお招きし「現役ベンチャーキャピタリストに聞く シリーズB以降の資金調達と予実管理」と題した対談形式のオンラインセミナーを開催しました。

この記事では、同イベントの内容を前・後編の2回にわたりご紹介いたします。後編では、IPO前後における予実管理の重要性、質疑応答についてのお話をご紹介します。

現在の調達環境

荻原:現在の調達環境、概況についてお聞きできますか。

堂前:業績をしっかり伸ばせている会社に関して言えば、バリュエーションの問題はあると思いますが、調達はできていると思います。業績進捗のピッチが下がっている、落ち込んでいる会社に関しては厳しいというか、難しい状況が続いている印象です。選別はより厳しくなってきていると理解しています。

荻原:最初のトピックで触れていただいた、調達する際にキードライバーが何であって、それが今後こういうふうに伸びていくという蓋然性を高く説明できると、投資家の方々も安心できるといったイメージでしょうか。

堂前:そうですね。キードライバーとなる先行指標やKPIを、発行体側もきちんとクリアに、投資家に対して理解しやすい形で説明することと、スナップショットではなくて、時系列変化を含めて、成長していることを開示し続けて、コミュニケーションを取り続けるのが、投資家にとっては安心感に繋がると思います。

荻原:バリュエーションのところも少し触れていただきましたが、一般的には特にSaaSの業界などは、かなりバリュエーションが一時に比べて下がっていると言われています。堂前さん自身もスタートアップの業界で、直近でバリュエーションが、目線が、企業側と投資家側で少しずつ合わなくなってきていると感じる部分はありますか。

堂前:特にミドル・レイターステージの会社のバリュエーションは、株式市況のインパクトの影響を受けやすいですね。そこは、バリュエーションのレンジが下がってきている実感はあります。一方アーリーステージやシードに近いところは、どちらかというとマーケットの影響は受けづらくなっています。シリーズAなので10%ダイリューション、15%ダイリューションで、このくらい調達したいといったバリュエーションの議論というよりは、調達金額と希薄化するシェアである程度このくらいというコンセンサスはあるかなという気がします。Bラウンド以降は、どうしてもバランスが必要になってきて、ダイリューションと出口のバリュエーション、マーケットのマルチプル・コントラクションのバランスをとらないといけないのがポイントだと思います。

荻原:マーケット環境には変化がある中で、直近でもいろいろと先進的な取り組みをされているとは思いますが、ご自身の投資活動について触れていただければと思います。直近どういった活動をされていて、投資した会社があれば、どのあたりを評価されたのでしょうか。

堂前:私たちはケップルDXファンドという新規投資をするファンドの運営もしています。その中で、7月に投資実行した会社は、ちょうどシリーズBでした。N-2期に入ったところで、半年くらい経過したのがこの夏の時期でした。そこは非常に予算達成の度合いが優秀で、今期に入って6ヶ月、ずっと毎月予算達成を継続していました。「予算達成、今月もいけそうです」と、獲得とリード数と商談と受注という先行指標のセットで、読みの数字を見せながら、「これも達成できました」と結果を見ながらのデューデリジェンス(DD)だったので、安心して投資することができたのが直近のケースです。Bラウンド、Cラウンドになればなるほど、決めた予算に対してミートできているのか、ミートできていなかったとしても、どうやってリカバリーするのか。そのあたりを説明していただけると、我々としてもそれを踏まえてDDもできるし、そこを飲み込んで投資の意思決定もできると考えています。

荻原:かなり足元の数字と直近、今後の数字で、トレンドや達成状況をしっかり開示して、安心して投資できたということですね。シリーズB以降の半年、一年、ないしはN期くらいまでの蓋然性やストーリーと、あとは当然IPOがゴールではないと思うので、さらに先の広がりや、よく言われる話であればTAM、SAM、SOMなどがあると思いますが、そういったところもピッチに盛り込んでいる企業さんは結構あると思います。そういったところに関してはどのぐらい重要視されていて、将来的なマーケットの大きさや、そこに対してどうやって山を登っていくのかといったストーリーはどうですか。重視したり、見たりしているポイントはありますか。

堂前:ベンチャーキャピタリストなので、まずTAMが大きいことは入口の条件な気がします。どれくらい大きい課題なのか、その課題を解決し得る手段として、どんなインパクトを与え得るのかは、もちろん説明していただきたいですし、我々としてもそこに対する、ある意味で共感できる課題認識みたいなものがあると嬉しいです。

例えば、国内のBtoBのビジネスであれば、生産性を改善しなきゃいけない。その背景には、労働力の不足や高齢化といった背景がありますよね。そういった共通認識みたいなところがあって、それをあるセクター、ある業種において置き換えると、こういう解決手段がありますといった説明が、入口の議論としては重要だと思います。そのアプローチとして、彼らがSOMでどのくらいとっていけるのかという実行力と、セットで見ていくところだと思います。それはBラウンド、Cラウンドとなれば、既存のお客様もいるでしょうし、彼ら自身のソリューションがどれくらい長く使われてるのかといった実績もある程度見えるでしょう。そういったところでエビデンスと説明と想像を回しながら検討していく感じですね。

参加者からの質問に対する質疑応答

Q.現在、冬の時代と言われることもあります。現状の評価についてぜひ聞かせてください。また、今、直前期や申請期の投資先が仮にあった場合、どのようにアドバイスしますか。例えばIPOの時期については、先延ばしすべきと考えるか、それとも行けるときに行くべきと考えるのでしょうか。

堂前:難しいですよね。基本的に業績が伸び続ける自信がある会社に関して言うと、先延ばしするほうを選ぶことを提案する場合が多いと思います。というのも、利益額をベースにしたマルチプルで評価されるようになってきていますので、そう考えると、N+2期のPERマルチプルでというより、N+1期のPERマルチプル、あるいはN期も見ますといった形で、マーケットおよびその背景にいる機関投資家の皆さんも、先のリスクがとりづらい環境にあるんじゃないかと理解をしています。そういう意味では着実に、今期5000万で、来期2億の利益が出ますという話より、じゃあ2億の利益が出たら、次の期は3億、5億の利益が出るんですよねというストーリーで出た方が、おそらくより大きいIPOにすることができるんじゃないかということから、先延ばしすべきという話をすると思います。ただ、現状すごく頑張ってストレッチしまくって、ここで出ないとみんな管理部が死ぬみたいなケースもあるので、なんとも言えないというのが正直なところですね。

Q.予実がぶれる要因について、原価管理のお話がありましたが、そのほかにはどういったものがあるのでしょうか。また、予実がぶれていた企業が精度を上げられた事例があれば、改善できたポイントを教えてください。

堂前:これも難しいですね。予実がぶれる要因について、原価管理の話を先ほどしましたが、どちらかというとトップラインがぶれる要因は、外部環境要因が大きいです。例えば、私が担当していた会社で、IPOを1年遅らせたケースがありました。これはレストランの口コミサービスのメディアをやっている会社です。ちょうどIPOしようとしていた時期に、コロナショックが始まったのかな。そういうタイミングがあって、一気にトップラインの成長が止まってしまって、エクイティストーリーも全部崩れてしまって、もう1回やり直しみたいなことになりました。そういう意味では、立て直すのが大変なくらいぶれるのは、外部環境のインパクトのほうがもしかしたら大きいかも知れません。そこは一回かがんで、もう一回案件の獲得から、入口から、コンバージョンから、PDCAからの見直しをして、精度を上げて、会社としても筋肉質になって、結果IPOまでは至ってくれたというところです。あとは、予実が大きくぶれ続けてる会社が精度を上げられた事例は、あまり見たことがないですね。

Q.予実管理以外のリスクとして、未払い残業代の話をされていましたが、出資を検討している企業に社会保険料の未納や分納が判明した場合は、どのような判断をされますか。

堂前:社保や税金の未納が判明した場合は、まず短期的に是正可能な状況にあるのかどうかを確認します。これが隠されていた場合は、我々、特にベンチャーキャピタルが結ぶ投資契約書ないし株主間契約書で、表明保証事項の中に、こういった後発事象がないとか、未払いの租税公課がないということを表明保証していただいているケースが一般的だと思います。だから隠されていた場合は、買取請求をする可能性があるということですね。隠されていない場合、資金的に厳しくて未納でした、分納していました、税金が未払いでしたというケースの場合は、どうやって是正するかを説明していただいて、それがリーズナブルであれば、プロセスを次に進める判断になると思います。

Q.予算策定自体のロジックについては、どの程度確認や重要視をされますか。当然、予算達成、未達は一つの指標になり得ると思いますが、予算の数字自体、企業間で温度感が異なるだろうなと思いました。投資先候補の企業の予算を見て、どういったところをポイントにご覧になりますか。

堂前:盛っているなと明らかに見えるケースの場合は、やはり過去の実績との対比ですね。達成・未達もそうですし、先月までの試算表の延長線上に、この数字がどうやって繋がるのかは確認します。そうは繋がらないだろうなというところは、踏まえて検討します。向こう3ヶ月、6ヶ月の予実が合うか合わないかだけが投資の意思決定の判断軸ではないです。この数字はこの数字で盛っていますよね、盛っているけど、将来的に課題解決に繋がって、大きいTAMをとりにいけるのはこの人たちしかいないなという判断が他の材料で得られれば、投資の話自体は進んでいくものだと思います。もちろんそこは、注意しなければいけない事項としてチェックしておいて、例えば、バリュエーション交渉のときの材料になるかもしれませんし、投資後のフォローアップをしていくところのポイントになるだろうと思います。例えば、そういったところをサポートしてくれるツールやアウトソーシング先などを、まず入れましょうという話をするチェック項目になるかと思います。

Q.現在の市場環境もあり、調達環境は悪いと聞きますが、事業環境は特に影響はないのかなと思います。その上でさらに調達が必要な場合は、アピールポイントとしては、売上より利益を出すことが重要ということでしょうか。それとも、売上、利益ともに120%達成といった結果が必要なのか、少しテクニカルな話かもしれませんが、コツのようなものがあれば教えてください。

堂前:120%という話よりは、着実に利益を出すことができうるという説明のアピールのほうが重要かなと思います。120%は前の質問の通りで、盛ったり調整したりできる話なので。それよりは、このビジネスでちゃんと付加価値を生むことができていて、結果として利益が出ますと。そのほうが重要だと思いますし、利益が伸び続けることの方が、おそらくは重要だと思います。事業環境に影響がないというのは、非常にラッキーなポジショニングができていると思いますので、それを生かして、利益を出し続けられるという説明の方が、今の状況では投資家に響くと思います。ここで5億を調達して、売上を5倍にします、できるかもしれませんというよりは、着実に利益を出していきながら、成長性も担保できますというアピールのほうがよいかと思います。少なくとも私は、そのほうが好きです。

荻原:マーケットとして、そういう変化が起きているというのは感じますか。特にSaaSの企業って、昔は掘って掘って、利益度外視でとにかくトップラインを伸ばすみたいなところが結構言われていたと思いますが、そういったところもやはり利益がある程度手前で出てくるかどうかを見られるようになってきていると聞きます。そのあたり、マーケット環境が変化していると感じる部分はありますか。

堂前:赤字を継続している会社のARRマルチプルの変化が、おそらくシリーズC、D、EのSaaSビジネスの価値評価、バリュエーションの評価に影響していることは否めないと思います。ただ、わりと早いステージの会社であれば、例えば100万、200万の利益が毎月出ていますという話よりは、MoMやQoQでこれだけ伸びていますというほうがインパクトがあるでしょう。会社のステージによっても若干変わると思います。

Q.もう一つ大きな環境変化として、コロナがあります。この環境下でVCの視点でご覧になって、期待できる起業家と出会えたのはどんな場やチャネルでしたか。逆に起業家としては、どういう場に出ていくと、意気投合できるVCと出会えるのでしょうか。

堂前:出会いの場は結構いろいろなところであって、もちろん人からの紹介もそうですし、少ないながらもオフラインでやっているピッチイベントなんかにもたまに出ています。展示会はさすがに行ってはいないですね。ピッチイベントなどは、意外とまだ、新しい起業家さんと出会う場所としては結構いいなと思います。コロナの影響はあまり受けていないかもしれないです。あまり変化は起きていなくて、オーソドックスにリファラルなのか、ピッチイベントとか、あとはマッチングイベントみたいなものとかは変わらず、オンライン、オフラインという形式の違いはあっても、機能と場所は同じだという気がします。

そういう意味では、ここ2、3年で前職を含めて投資したケースで言うと、実際にリアルでお会いしないで投資したケースのほうが多いですね。最後に払い込みの前日くらいに、本当にオフィスがあるかなと見に行くみたいなことはありますが。そういう意味では、前職時代の最後の投資先は名古屋の会社でしたし、ケップルで最初にやった案件は大阪の会社でした。みんながリモート環境に慣れたおかげで、地理的な要因で出会えないみたいなことはむしろ減ったかもしれません。

Q.未払い残業代の出資後の発覚の件、大変共感いたします。投資先のモニタリングの難しさ、経営者がモラルハザードを起こしていないか等、いつも課題感を持っています。そもそも、そう感じる時点でDDしきれていないのですが。おそるおそる投資先の総勘定元帳を見てみると、私的な費用、不明な交際費等をいろいろ見つけてしまうのですが、そういったことで、何かアドバイスをいただけないでしょうか。

堂前:元帳などを見るといろいろ見えますよね。見たくないものが見えます。投資前も投資後もそうですよね。意外とこの人、ラウンジとか好きなんだ、みたいなことがありますよね。程度の問題だと思ってはいます。もちろんプライベートな息抜きみたいなことも、必要だと思います。ただ、何でもかんでもどんぶり勘定で、これって本当に交際費として承認したほうがいいのかどうかは、チェックポイントとして、腹に収めておくんでしょうね。それであとあとになって、ここを改善しましょうというポイントにしていくところかと思います。DD時点で発見して、どうしても受け入れられないものはあると思います。それはファンドの方針として受け入れないルールのものもあるでしょうし、個人的にこれは嫌だなというのもあるでしょう。それは案件の善し悪しによらず、多分そのあとの付き合いを継続していくことが難しくなってしまう可能性があるので、私は投資を断りますね。どうしても受けられないものを見つけてしまった場合は、断ります。

以上、セミナーの内容をお伝えしました。

実際に数多くの企業への投資を行ってきた堂前氏のお話からは、上場前や資金調達における、予実管理の重要性や、資金調達実施に至るまでの大変さがよく伝わってきました。

「DIGGLE」は、業績の着地予測精度を向上させる予実管理クラウドサービスです。予算策定・予実突合・見込み管理・レポートといった、経営管理業務全体を「DIGGLE」上で一気通貫で行うことで、予実ギャップに対するアクションの早期化と経営層や事業部とのコミュニケーションの円滑化を実現します。予実管理体制を整えたい企業のご担当者様はぜひご検討ください。

また、DIGGLE株式会社では毎月、予実管理業務に関するセミナーを開催しております。ぜひご参加ください。

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