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脱「Excel」の経営管理DXでスピーディーな意思決定(前編)

*本記事は2022年9月7日にZDNet Japanにて掲載されたものです。

 ビジネスの現場において、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性は日に日に増してきています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を合わせた“VUCA”という言葉で表され、先行きが見通しづらい今の時代、企業はその競争力を強化していくため、DXの推進が欠かせない状況です。

 また、DXの文脈で、“脱「Excel」”に取り組む企業も増えてきています。

 本連載では、経営管理領域におけるDXの現状と、脱Excelのポイント、注意点について解説していきます。前編である今回は、DXの定義をおさらいし、そこから経営管理の現状について触れ、Excelで経営管理を実施する際の問題点の一つについて述べます。

経営管理DXの現状

DX、脱Excelとは

 そもそもDXとは何を指すのでしょうか。さまざまな切り口から語られることの多いDXですが、ここでは、経済産業省の「DX推進ガイドライン」にある定義を参考にしたいと思います。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

 ここで注目いただきたいことは、DXとは単なるデジタル化や業務効率化ではなく、「変革を起こし、競争上の優位性を確立すること」であるとしている点です。後に触れますが、経営管理基盤の構築こそ、この目的を達成するための一丁目一番地であると筆者は考えています。

 また、脱Excelも同様に近年注目を浴びているキーワードです。これはクラウドサービスの発展とともに、それまでExcelで管理していた業務が専門性の高いツール(多くはSaaSと呼ばれるクラウドサービス)に移行することを指します。例えば、勤怠管理や顧客管理などは、一昔前であればExcelで管理していたが、現在は専用ツールを利用しているという会社も多くなってきているのではないでしょうか。

経営管理とは

 次に経営管理について確認していきます。経営管理とは、「組織が目標に向かって活動するために資源(リソース)を配分し、目標と結果のギャップを把握して必要に応じて調整するシステム」のことを指します。

 以下本稿では、経営管理における予算策定、予実管理、着地見込、経営分析について主に解説します。

経営管理DX、脱Excelの現状

 では、肝心の経営管理領域におけるDX、脱Excelの現状はどうでしょうか。残念ながら経営管理そのもののDXについては、あまり進んでいないというのが現状です。下のグラフは経営管理に利用しているツールの割合を示しています。

 グラフから分かる通り、ほとんどの企業はExcelや「Google スプレッドシート」といった表計算ソフトを利用しており、その業務実態は過去とあまり変化がありません。次項では、経営管理をExcelで実施することの問題と経営管理サービスによる課題解決を解説していきます。

経営管理をExcelで実施する問題と経営管理システムによる課題解決

問題1:多人数での集計に適していない

 Excelの大きな問題点として、複数人が一つのファイルに同時にアクセスできないことが挙げられます(「SharePoint」は除く)。経営管理においては、管理部門が統括していますが、そこで完結することは少なく、事業部にて予算を策定する、予実差異に関する分析を実施する、など部門間で連携していくことが必須になります。そのため、一つのファイルに一人しかアクセスできないのは、大きなデメリットです。

 そこで、多くの企業では、管理部門にて集計フォーマットを作成し、それを関連部署へ送付、そのフォーマットに各部署が入力し管理部門へ返送、管理部門にて集計するというフローを敷いていることが多いかと思います。

 その場合、事業部へフォーマットを展開する中で、Excel関数が意図せず変更・破壊されて戻ってくることが往々にして発生します。事業部においても管理部門への報告用のExcelを用いていることが多く、そのExcelを加工しながらフォーマットへ入力するため、その過程でフォーマットに行追加や変更などが加えられてしまうことがあります。事業部としては悪気がない場合が多いですが、フォーマットが崩れてしまうと管理部門が集計する際にミスが発生してしまいます。そのため、毎回意図しない変更が加えられていないか注意が必要になります。

 また、集計ロジックの変更や部門追加などが発生した際には、関数のメンテナンスが必要なことも見逃せません。既存のフォーマット内でその変更が与える範囲を調べ出し、全ての数式・関数に抜け漏れなく修正を加えないと、集計した結果が間違ってしまいます。

経営管理システムによる解決:クラウドサービスなので、同時アクセスや集計が可能

 クラウドで提供される経営管理システムであれば、クラウドを基盤としているため、多人数での同時アクセス・編集はもちろんのこと、あらかじめ組まれたロジックに従って事業部の入力数値が集計されるため、意図しないExcel関数破壊のようなことが起きることもありません。また、事業部が入力した数値がリアルタイムで反映されるため、従来は数値の集計やレポーティングにかかっていた時間が大幅に短縮されることも見込まれます。

まとめと次回予告

 いかがでしたでしょうか。今回は、DXの定義をおさらいし、そこから経営管理の現状について触れ、Excelで経営管理を実施する際の問題の一つ目として「多人数での集計に適していないこと」を解説しました。後編では、問題をさらに取り上げるとともに、Excelで実行した方がよいことについてもご紹介します。

荻原 隆一(おぎわら・りゅういち)
DIGGLE COO

東京工業大学大学院修了後、大和証券にてデリバティブトレーディング業務に従事。その後、社内選抜によりLondon Business School MBA課程へ留学。留学中にはAI系のスタートアップ2社にてエンジニアとしてプロダクト開発を行う。帰国後は、派遣元の大和証券に戻り、経営企画部にてグループ全般の経営に関する、企画・立案・M&A等に従事。2020年に予実管理クラウドを提供するDIGGLE株式会社へジョインし、グロース全般を担当。

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