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脱「Excel」の経営管理DXでスピーディーな意思決定(後編)

*本記事は2022年9月14日にZDNet Japanにて掲載されたものです。

 経営管理領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する今回の連載では、前編で経営管理DXの現状について触れるとともに、経営管理をExcelで実施することの問題の一つ目として「多人数での集計に適していない」ことをご紹介しました。後編となる今回は、引き続き「Excel」管理における問題についてご紹介するとともに、Excelで実施すべき点についても解説していきます。

経営管理をExcelで実施する問題と経営管理システムによる課題解決(続き)

問題2:時系列の把握に適していない

 経営管理におけるExcelの別の問題点として、時系列の把握が難しいことが挙げられます。予算策定を例に取ると、期末に次年度の予算策定を実施しますが、管理部門が音頭をとって事業部から予算の素案を集め、全体の数値を確認・協議し、事業部が修正案を再度出すといったプロセスが多いかと思います。

 とはいえ、一往復で最終予算が確定することは多くなく、基本的には何度も数値の修正を繰り返すことになります。しかし、どのような経緯をたどって最新の数値が出来上がったのかを後から確認・分析しようとすると、策定過程のファイルが残っておらず、なぜこの数字になっているのか分からないといった問題が発生します。よって、時系列でどのような修正が施されていたのか把握するため、ファイルを都度保存しておく必要があります。

 一方、修正を繰り返すたびにファイルが増殖し、最新版のファイルがどれか分からなくなるといった問題もよく発生します。その場合、部門間で会話する際の前提として見ている数値が違っていた、最終報告としてマネジメントの報告する数値が最終版ではなかった、ということが起こりかねません。

 また、時系列できちんと保存できていたとしても、いざそれらを比較したいーー例えば、初期のドラフト予算と確定版を比較したい場合、それぞれのファイルから関数を活用して数字を集計する必要がありますが、その集計過程でミスが起きてしまうこともあり得ます。

経営管理システムによる解決:常にリアルタイムでデータが集計され、最新の情報を表示

 クラウド型の経営管理システムにおいては、常に最新の数値が集計されるため、バージョン管理は不要となり、議論の前提がずれているといったミスを防ぐことが可能です。また、バージョン同士の比較についても、該当バージョンを選択するというように数クリックで済むことになるので、比較のたびにExcelを駆使して集計する負荷も軽減されます。

問題3:データがExcelファイルごとに散らばる

 最後にデータが散逸するという問題に触れたいと思います。経営管理を実行する上で、必要となるデータは多岐にわたります。例えば、販売管理システムからの売り上げ/取引先情報、財務システムからの会計情報、人事システムからの人員情報などが該当するでしょう。これらを明細の粒度で一つのExcelファイルに格納することは困難であり、多くの場合は各種システムからの出力を中間Excelで(場合によっては複数回)加工し、最終的な統合Excelへ記入していることも多いかと思います。

 その場合に手間なのは、加工もさることながら、統合Excelからさらに詳細な分析をする場合、当該Excelに明細データがないため、中間Excelをさかのぼる必要があることです。

 これは予算についても同様で、予算と実績のズレが発生した際、報告用のExcel上では粗い粒度でのズレの実額しか分からないことがほとんどです。なぜズレが発生しているのかを知るには、施策ごとに積み上げで予算を策定している事業部へヒアリングする必要が出てきます。

 このように、データがファイルごとに散らばっているため、何かを分析する際に一つずつデータソースをさかのぼる手間が発生し、要因の把握や打ち手の実行までのタイムラインが長くなる恐れがあります。

経営管理システムによる解決:データを一元化し、予実分析がスムーズに

 経営管理システムに上記のようなデータを登録しておくことで、データを一元的に管理し、全てのメンバーが同じ数字を見ながら議論が実行できるようになります。また、各種データの明細粒度までシステムに取り込んでおけば、瞬時に分析・要因把握が可能となり、素早い意思決定につなげることが可能です。

Excelによる問題で重要なこと

 3つの問題を紹介してきましたが、最も重要なことは、これらが抱えるデメリットが「経営の意思決定が遅くなってしまう」「間違った数値を基に経営判断を下してしまう」という結果を招くことだと考えます。企業を取り巻く環境変化が激しい時世において、素早く精度の高い意思決定をするための経営管理体制を構築することが肝要です。

 また、事業のステージや環境の変化により、経営管理プロセスは変化していくものですが、その結果として、プロセス(具体的にはExcel)管理が属人化してしまい、特定のメンバーでないとExcelに触れなくなるというリスクも避けなくてはなりません。

Excelで実行した方がよいこと

 ここまでExcelの問題点について触れてきましたが、Excelで実施すべきことについても指摘しておきたいと思います。

複雑な(フィナンシャル)モデルを作る

 Excelは柔軟性が高く、統計値を計算する便利な関数などもあるため、複雑な(フィナンシャル)モデルを構築する際には非常に強力なツールとなります。例えば、財務三表を連動させた財務戦略シミュレーションを作成する場合です。“変数の中でキードライバーを何にするか”など個別のケースに応じて調整や作りこみが必要なため、システム化してしまうと小回りが効かなくなります。また、多人数で編集するものでもないので、モデル作成のオーナーがしっかりシートの構成を把握しておくことで、前述したExcelの問題点も回避することが可能です。

グラフや表の最終的な細かい調整をする

 また、数値をアウトプットする際のグラフや表を細かく調整したい場合は、柔軟性のあるExcelを利用するとよいでしょう。文字や線の色、太さ、大きさなどは簡単に変更可能ですので、レポーティング時のフォーマット変更が頻繁にある場合などは、最終調整をExcelで実施すると素早く対応できます。

まとめ

 以上、経営管理をExcelで実施する問題点とExcelで実施すべき業務について触れてきました。経営管理と一口にいっても、業務は多岐にわたります。クラウドシステムとExcelの特徴をそれぞれ把握し、強みに合わせて使い分けることで、経営管理のDXを推進していくことが重要と考えます。

 前編の冒頭で説明したように、経営管理は企業が競争上の優位性を確立するための重要項目です。DXの定義に立ち返ってみると、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し」「顧客や社会のニーズを基に」競争上の優位性を確立するとあります。

 ビジネス環境の変化や顧客のニーズに素早く対応するためには、状況把握、すなわち目標と結果のギャップを瞬時に把握し、素早く新たなアクションにつなげることが必要です。まさしく、経営管理の定義そのものといっても過言ではなく、強固な経営管理体制の構築がDXに不可欠と言えるのではないでしょうか。

 一方で、その実施プロセスについては注目されることがあまり多くありません。本連載が、自社の業務フロー、Excel管理方法にリスクがないかを今一度振り返っていただく機会となれば幸いです。

荻原 隆一(おぎわら・りゅういち)
DIGGLE COO

東京工業大学大学院修了後、大和証券にてデリバティブトレーディング業務に従事。その後、社内選抜によりLondon Business School MBA課程へ留学。留学中にはAI系のスタートアップ2社にてエンジニアとしてプロダクト開発を行う。帰国後は、派遣元の大和証券に戻り、経営企画部にてグループ全般の経営に関する、企画・立案・M&A等に従事。2020年に予実管理クラウドを提供するDIGGLE株式会社へジョインし、グロース全般を担当

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