「効率的に確度の高い予算を策定するポイント」をテーマに、オンライン勉強会を開催しました

多くの会社が多大な時間と工数をかけて、予算を策定します。しかし、せっかく苦労して作っても、年度中の予算管理にも時間がかかり、さらには経営にとって役立つ分析がなかなか出せないといった悩みも多いのが実態です。
先日、DIGGLE株式会社では、「効率的に確度の高い予算を策定するポイント」と題しまして、管理会計ラボ株式会社の梅澤真由美氏をお招きし、経営者に喜ばれる予算を効率的に策定するための実践ポイントをまとめたセミナーを開催しました。事業部門の巻き込み方や、予実突合までの流れを踏まえた仕組み化など、実務家会計士だからこそ話せる、明日からできる実践的なコツやノウハウについて梅澤氏にお話をいただきました。


目次
予算の本質と目的

予算とは?
予算とは何か?実務をやっていると予算という言葉は当たり前のように出てくるため、実は改めて説明を受けたことがないという方が非常に多くいらっしゃいます。予算を一言で言うならば、「会社の数字の目標」だと思ってください。
予算を作る目的は?
では、なぜ予算を作るのか?これもあまりに当たり前すぎて、意識をすることが少ないかもしれませんが、大きく2つの理由があります。
1つ目は、成り行きまかせで経営を行うとリスクコントロールがし辛いからです。特にこの3~4年は、コロナ禍ということで多くの会社が非常に苦労されたと思いますが、会社が潰れてしまうかもしれないというリスクをできる限り抑えて対応していくためには、先行を見据え、せめて1年後にどのようになりそうか見ておく必要があります。
2つ目は、従業員の目線を合わせるためです。組織には多くの人が集まっており、それぞれ考えることも少しずつ違います。
例えば、営業部門を想定すると、「来年はもう少し売り上げを上げよう」と部長さんが言ったとしても、部下の課長さんはその少しが「プラス5%」って思うかもしれません。一方、部長さんは「プラス20%」と考えているかもしれません。
最近はダイバーシティという言葉もありますが、昔から会社の中にはたくさんの色々な考え方の人が集まっています。それぞれのベクトルを合わせるためにも、具体的な数値、それも金額を設定していくことが必要となります。
予算の内容は?
次に、予算を作ると言っても何を作るのか?基本的には次の1年間の月次全社PLを作ることだと思ってください。
全社PLを作るというのは、売上から利益まで全社の数字を作るイメージをお持ちだと思います。注意すべきことは、年間の数値が、月次にブレイクダウンされている必要があるということです。
「キャッシュフロー表、資金繰り表を作った方がいいですか?」というご質問をよくいただきますが、回答は「会社さん次第」となります。「必要なら作る」ということです。ただし必ずベースにあるのは、「月次の全社PL」となります。
予算作成フォーマットと部門連携のポイント

月次PLのフォーマット
全社の月次PLを作る際の具体的なフォーマットは、横軸に月が並び、縦軸にPLの勘定科目が並ぶケースが多いです。
ちなみに空白のフォーマットを各部門に渡して埋めてもらうやり方をすることがよくありますが、あまりおすすめはしません。その理由は、後段、事業部門との連携のところで触れます。
勘定科目別の予算策定パターン
縦に並ぶ勘定科目には、売上、営業利益、経常利益、そして当期純利益がありますが、経理とか経営企画の方々には、勘定科目別にメリハリをつけて作ることをおすすめします。
どのようにメリハリ付けるかについて、ここでは3パターンの例をご用意しています。
1つ目のパターンは、管理会計部門が先導するパターンです。例えば水道光熱費・地代家賃・保険料のような、季節変動を踏まえれば、基本的には予想しやすい科目は、管理会計部門で予想して数値を記載し、事業部門に確認してもらうやり方の方が全社的な工数削減につながります。
2つ目のパターンは、事業部門が主体的に数値を記載するパターンです。売上や広告宣伝費などの数値は、それらを担っている事業部門に記載をお願いする必要があります。何を売るか、どのような販促をするかで金額が大きく変わるため、過去の数字を参考に管理会計部門で記載するのは難しいです。
3つ目のパターンはハイブリッ型です。例えば人件費は、過去の数値が参考になるケースもあります。ある程度管理会計部門が関わることが出来る、あるいは関わるべきであるという点がポイントです。
人件費は金額のウエイトが大きいため、人事部門に丸投げし、集計範囲を誤って予算として計上すべき金額を間違えてしまうようなケアレスミスを防ぐためにも、ある程度は、管理会計部門が関わった方が良いと考えられます。

重要科目の内訳分類方法
一方、各事業部門をどのように巻き込むかという点については、各事業部門にお願いする際にある程度枠組みを整理した上でお願いすると、月次での予実管理や後続の工程がスムーズに進みやすくなります。対象となる重要科目は、売上や広告宣伝費などです。特に重要な金額の内訳については、足し算型あるいは掛け算型の方法で整理をすることをおすすめします。
売上について足し算型の例を挙げますと、地域ごとに分ける方法があります。また広告宣伝費であれば、メディア別に分類する方法があります。このような分類方法は、営業担当者が売上を分析するために使用している可能性が高いので、その方法をそのまま活用していただくことを強くおすすめします。なぜなら、月次で予算と実績の比較を行う際に、管理会計部門と事業部門が同じ基準で分類をしていないと比較が難しくなるからです。そのため、予め営業担当者や関連する部門が使用している分類方法を管理会計部門も利用することが適切であると考えられます。
例えば、私は以前ディズニーで働いていましたが、ディズニーではさまざまなキャラクターや作品が存在します。その場合、他社の売上と比較するためにはどのような分類ができるでしょうか? 映画別の分類やキャラクター別の分類などが考えられます。自社内で事業部門が、どのような観点で売上を分析しているのか把握しておくことが重要です。もしもその分析方法について理解が難しい場合は、営業担当者と協力して情報収集を始めることをおすすめします。
次に、もうひとつのパターン、掛け算型について説明します。掛け算で要素を分解するアプローチは、KPIの設定と近しい概念です。例えば、売上を掛け算型で分解すると、客数×客単価のような形で分解する方法があります。BtoBビジネスの場合、1人当たりの営業担当者の売上や、営業活動ごとの1人当たりの売上を、営業担当者の人数と掛け合わせることもあります。
ここでのポイントは、個々の構成要素をどのように考えるかという点で、足し算型でお話したことと同様に、既に事業部門で使用されているアプローチを利用することが重要です。
上場企業の場合は、このような重要科目を要素別に分解したものを、決算発表の際にビジネスの成果として説明するケースもよく見受けられます。
足し算型と掛け算型を説明しましたが、いずれも短期間で変更はせず、継続的に活用するものです。過去から各事業部門で使用されてきたアプローチは、今後も有用である可能性が高いのです。各事業部門での過去の分析方法によっては、足し算型と掛け算型を併用することも多くあります。
もし営業担当者が足し算型と掛け算型を併用している場合は、それがその会社のビジネスに適していると言えるでしょう。どちらかに絞り込む必要はなく、重要な科目については、内訳の分類方法を事業部門にそのまま提供していただくことをおすすめします。

月別の按分方法
次は横軸に焦点を当ててみましょう。一部の勘定科目では、年間の金額は明確であるものの、それを月別にどのように配分するべきか迷うことがあるかもしれません。
以下の3つのパターンに分けて考えてみます。1つ目のパターンが、他の勘定科目と連動するものです。例えば、販売手数料などがこれに該当します。もしもこのような科目が売上に連動している場合、売上に対する一定の割合で計算する方法が考えられます。ここで大切なのは、売上の予算だけは月次の数値を最初に確定させることです。先ほど、売上は重要な科目であり、足し算型や掛け算型のアプローチを使って考えるべきだと述べました。横軸の数値も同様に、営業担当者や事業部門に協力してもらうことが必要となります。
この際に注意すべきなのは、管理会計部門の担当者が、事業部門から数値を提出してもらう場面です。管理会計部門の担当者は、提出された数値の正確性に疑念が生じることもあるかもしれません。そういった場合、先ほどお伝えした掛け算型のアプローチなどが役に立ちます。例えば今年度の実績に関して、数量と単価の分類を予算策定時に行っていれば、単価が上昇しているのか下落しているのか、同じ月の昨年と比較してどうなっているのか、把握することができます。そして、その背景について事業部門に尋ねることも可能となります。これだけで一定の正確性の判断が可能となります。しかし更なる正確性を判断する必要性に迫られると、経験と知識が必要となります。もし十分な経験がない場合は、同僚や上司にアドバイスを求めることを検討してみてください。社内の他の人の視点を取り入れることで、より正確な判断が可能になるかと思います。
2つ目のパターンが、光熱費や保険料など、季節変動があるものについてです。これらの科目については前述しましたが、過去の同じ季節や同じ月の水準に合わせる形で数字を設定するのが良いでしょう。
そして、3つ目のパターンは、予想することが難しい科目についてです。例えば、修繕費。修繕費は予め計画して支出されるものだけでなく、突発的に発生することがあります。年間の修繕費が2億円とすると、どのように月ごとに配分すべきか悩ましいものです。会社によっては回帰分析などの数学的手法を用いて対処する場合もありますが、私のおすすめは「シンプル・イズ・ベスト」です。計画的な修繕に関しては別ですが、突発的な修繕については、誰が何月にどのような修繕を行うかを予測するのは難しいので、月次の予算の中に均等按分して組み込むことをおすすめします。
なぜなら、後に月次決算で予算と実績を比較する際、大きな修繕が発生した際の差異理由を説明が出来れば事足りるケースが多いからです。管理会計部門の担当者の中には、差異を避けることを望む方もいらっしゃるかもしれませんが、経営者の観点からすると、差異が生じた理由を説明できることの方が重要です。
私自身が社外取締役として様々な取締役会に出席している中で、差異が発生することよりも、差異の理由を説明できないことの方が、経営者は圧倒的に嫌がると感じています。したがって、複雑な予算立て手法を避け、シンプルな方法で予算を作成する方が、後に差異理由などを説明する際に役立つと思われます。

予算の前提を把握する重要性
予算を策定する上で、正確性は重要ですが、完全に正確でなければならないわけではありません。私も以前は実務を行っていたため、出来る限り正確な予算を策定したいと考えていました。しかし、将来の事象を予測するのは難しいということを理解することも重要です。どれだけ精度を高めようとしても、未来は未知数であり、予測は予測に過ぎないことを覚えておくべきです。
予算を作成することで将来をある程度予測し、必要なアクションを打つための道筋を描くことが重要となります。
この視点から考えると、正確さよりも整合性が重要となります。そのためには、予算策定の際に数値の前提を想定する必要があります。予算策定の前に、どこに資金を投下するかという戦略的な議論があるべきで、次に、その戦略を実現するために必要な金額を予算に落とし込んでいく段階に移行します。もしご自身や自部門が戦略策定に携わっていなかったとしても、予算の前提となる戦略があるか否かの確認、予算として出てきた数値が戦略と整合しているかの確認が必要となります。
また、予算の中に戦略や戦術が反映されているか、抜け漏れがないかの確認をすることも重要です。もし戦略や戦術に基づいて予算が作成されていないと、予算通りの成果を出すことが難しくなるからです。戦略や戦術が抜け漏れていた場合、各事業部門が慌てて戦略に合わせた支出を始めるケースもよく見受けられます。結果として、予算と実績の間に差異が発生してしまいます。このような差異は避けられる差異であり、予算段階で情報を適切に織り込む重要性を示しています。
ある程度予測可能な要素は、予算の前提として組み込むべきものとなります。その上で、外部のトレンドや会社の状況が変化することで生じる差異が一定発生するのは避けられないので、完璧を求めすぎず、予測可能な要素は予算に組み込むという考え方で予算策定を行うのが程よい塩梅かと思います。極端な話、予算を1円単位で作成する必要はなく、将来の見通しを行うものであれば、1000円単位で予算を作成したとしても全く問題ありません。

事業部門側に予算提出納期を守って貰うポイント
前段で、各事業部門に予算の入力をお願いする際、配布する予算入力フォーマットを空欄で配布するのは避けた方がよいという話をしました。その理由は、PLおよび勘定科目は、事業部門担当者にとって非常に理解がしづらいためです。簿記などを学んでいない人にとっては、どの費用が何に該当し、いつ支払われるものかが理解しにくいものです。
企業ごとに個性が出る話でもありますが、事業部門の方々は、具体的にどの費用をいついくら使うかは説明できるとしても、その費用がどの勘定科目に対応するのか判断することは難しい傾向にあります。
したがって私のおすすめは、各事業部門が管理している予算フォーマットをそのまま提出して貰うことです。私自身が過去に管理会計部門で業務を行っていた際には、各事業部門の管理している予算内容を勘定科目に変換するような数式を組んで集計していました。
このような対応をすることで、事業部門の担当者は、自身が馴染みのあるフォーマットに数字を入力するだけで済むため、負担を最小限に抑えることが出来ます。事業部門との連携が予算作成の鍵ですが、最も重要なことは事業部門に対しての負担を極力抑えることです。
事業部門側が普段扱っているフォーマット、用語、アプローチ方法を理解し、尊重することで、期限を守って貰うことができます。事業部門側に期限を守って数値を提出して貰うことは、非常に重要です。私の経験からも、多くの会社がボトムアップ的に事業部門ごとの数値を全社予算策定に利用するため、事業部門から数値が提供されなければ作業は滞ります。
そのため、事業部門から数値を素早く提供して貰うことが大切です。先ほど述べた通り、事業部門に既存のフォーマットを使って数字を埋めて貰うことで、期限が守られる傾向が強くなります。
このように、様々な情報やコミュニケーションを各部門や事業部門が管理している内容を起点にすると、管理部門側は事業部門の分類やKPIを理解することが大変になるかもしれません。しかし、それは初めのうちだけで、年間を通じて同じ方法で事業部門側とコミュニケーションをしていけば、掛け算と足し算の中身が何かをいちいち考える必要はなくなっていきます。

予実差異分析を行うフォーマット
通常、各企業は予算と実績の比較を月次決算で行います。この際に、予算と実績の差額を表示するフォーマットが使用されます。このフォーマットで表現される数値に対しては、社長や取締役、顧問の方々などからさまざまな質問が投げかけられます。同じ切り口の質問やコメントが違う会議体で2回以上繰り返された場合は、次回の会議体までに対象となる質問を繰り返されないような分析の枠組みを用意するか、報告のフォーマットの項目に組み込むことをおすすめします。質問は内容の理解を助けるために行われるものですが、同じことが何度も問われる場合、その内容は会社にとって重要な要素である可能性があるということです。そのため、適切にその内容が理解されるようなフォーマットを準備すると効果的です。
予算管理業務の重要なチェック視点

予実管理を行う際のチェックポイント
予算管理業務を行う際に、2つのチェック視点が重要となります。1つ目は、ロジックチェックの視点です。数字が完璧である必要はありませんが、一定の正確さがあることを確認するのが大切です。
2つ目は、ストーリーチェックの視点です。具体的には、なぜそのような結果になったのか、その背後にある意味を理解することです。例えばある会社の事例で、前月の予算と実績の差異分析が行われていた際に、単価が上がり数量が下がったため、予想よりも売上高が低かったという内容が報告されていることがありました。この事例での報告内容は事実ではありますが、ストーリーチェックが不十分と言わざるを得ません。
なぜなら、経営者が知りたいのはなぜ単価が上がり、数量が下がったのか、その背景だからです。さらにはその影響についての評価も知りたいのです。評価とは、それが将来も続くものなのか、一時的な事象なのか、影響の大きな問題なのか、それとも心配する必要のないことなのか、などを示します。このような視点での確認がストーリーチェックであり、このような評価には質問者の感情も関与しています。数字の変化に関する前半部分は事実の話ですが、経営者が知りたいのはそれだけではなく、その背後の背景や感情なのです。
とはいえ、日々忙しい中で完璧にストーリーチェックを行うことは現実的ではありません。そのため、まずは経営サイドからのリクエストがあった場合や、同じ質問が2回以上出た場合は、リクエストや質問に取り組む方針を採ることが重要となります。具体的には、今申し上げたストーリーチェックを再分析の中で行う際に、以下のようなコメントを加えることがポイントとなります。

差異分析レポートのコメントのポイント
たとえば、期ズレかそれ以外か。期ズレだった場合、「年度内か年度外か」、「利益にどのような影響があるのか」、「内部要因なのか、外部要因なのか」などをわかるようにしておくことは重要です。会計的な話に限定せず、ビジネス目線でのコメントを入れられると、経営層の要望に応えやすくなります。前述した「足し算型」「掛け算型」で出てきた数値の内訳についても、報告に織り込めると尚納得感が得られやすくなります。

本日のセミナーのまとめ
予算策定において重要なことは、月次決算や分析、経営者の報告などの後工程を踏まえることです。そのためには事業部門に協力して貰うことが不可欠であり、事業部門が既に使っている考え方やフォーマットを活用し、予算作成を行うことが実務上において重要なポイントとなります。

本日は30分のダイジェスト版としてお話をさせていただきましたが、より深く管理会計について学ばれたいという方には、オンラインスクールも開催しておりますので、ご関心があればご確認ください。
話者紹介

管理会計ラボ株式会社 代表取締役 公認会計士
梅澤 真由美 氏
2002年に公認会計士試験に合格後、監査法人トーマツ東京事務所にて監査業務に4年間従事。2007年より10年超、日本マクドナルド㈱およびウォルト・ディズニー・ジャパン㈱にて、経理・予算管理・経営企画など幅広い業務に従事した。
自身の実務経験から、制度会計と両立した仕組みづくり、予算管理の改善や活用、事業部門や経営者とのコミュニケーションなど、「実務家会計士」ならではの業務領域が得意。日本の管理会計実務の第一人者。
以上、セミナーの内容をお伝えしました。
予算策定を行う際に事業部を巻き込む必要性や、経営層が何を求めているかを想定する重要性などがよく伝わってきました。
「DIGGLE」は、組織の距離を縮め、企業の未来の質を上げる予実管理クラウドサービスです。経営管理フローの最適化と経営情報の一元化により、業務効率化と組織間のコラボレーションを促進し、迅速で質の高い意思決定を支援します。予算策定・予実突合・見込管理・レポートといった、経営管理業務全体を「DIGGLE」上で一気通貫で行うことで、予実ギャップの要因把握・アクションの早期化と業績の着地予測制度の向上を実現します。予実管理体制を整えたい企業のご担当者様はぜひご検討ください。